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東京高等裁判所 平成8年(ネ)593号 判決 1998年4月22日

控訴人(原告)

永井伸二

外一名

右両名訴訟代理人弁護士

曽田淳夫

曽田多賀

北久浩

被控訴人(被告)

東急工建株式会社

右代表者代表取締役

益子孝

右訴訟代理人弁護士

弘中徹

三好重臣

早坂亨

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人は、控訴人永井伸二に対し一〇〇八万円、控訴人永井敏久に対し一三一二万円及びこれに対する平成三年七月一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人らの当審におけるその余の予備的請求をいずれも棄却する。

四  当審における訴訟費用は、これを四分し、その三を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人の負担とする。

五  この判決は、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  控訴人らの求める裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人永井伸二に対し、三七九四万六三八〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人は、控訴人永井敏久に対し、四九四六万〇五〇〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  仮執行の宣言

二  当審における予備的請求

1  (不法行為に基づく損害賠償請求)

(一) 被控訴人は、控訴人永井伸二に対し、三〇四七万六二二〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 被控訴人は、控訴人永井敏久に対し、四一九九万〇三四〇円及びこれに対する平成三年七月一日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

(三) 当審における訴訟費用は、被控訴人の負担とする。

(四) 仮執行の宣言

2  (不当利得の返還請求)

(一) 被控訴人は、控訴人永井伸二に対し、七四七万〇一六〇円及びこれに対する平成四年三月一一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

(二) 被控訴人は、控訴人永井敏久に対し、七四七万〇一六〇円及びこれに対する平成四年三月一一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

(三) 当審における訴訟費用は、被控訴人の負担とする。

(四) 仮執行の宣言

第二  事案の概要

本件事案の概要は、次の一のとおり原判決を加除訂正し、二、三のとおり控訴人らの当審における予備的請求原因等、被控訴人の抗弁等を付加するほか、原判決事実及び理由の「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の加除訂正

1  原判決四頁二行目の「各」を「最終」と訂正し、同三行目の「である。」の次に「また、原告らは、予備的に、被告の契約締結上の過失及び契約実行段階における過失により、原告伸二は三〇四七万六二二〇円の損害を、原告敏久は四一九九万〇三四〇円の損害をそれぞれ被ったとし、さらに、前記業務委託契約の成立が認められないならば、被告は原告らに対し、受領済の業務遂行費用各七四七万〇一六〇円を不当利得として返還すべきであるとして、被告に対し、原告伸二は、これらの合計三七九四万六三八〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を、原告敏久は、これらの合計四九四六万〇五〇〇円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めている。」を、同四行目の「すぎない」の次に「など」を、同五行目の「債務不履行」の次に「又は不法行為」を、同六行目の「条」の次に「の」を、それぞれ加え、同七行目の「主張して損害額を争う。」を「し、また、過失相殺及び消滅時効(不法行為責任につき)を主張するなどして損害の存否及び損害額を争っている。」と訂正する。

2  原判決一〇頁八行目の「五〇一七万二〇〇〇」を「五〇一四万四〇〇〇」と訂正し、同一二頁三行目の「争点」の前に「主要な」を加え、同一三頁九行目の「金額に超える」を「超える」と、同一四頁五行目の「供される」を「供する」と、それぞれ訂正し、同一七頁四行目の「土地上に、」の次に「被告のいう」を、同七行目の「とは、」の次に「正しくは、」を、それぞれ加え、同一九頁三行目の「5」を「6」と訂正し、同二一頁一行目の「8」を削除する。

二  控訴人らの当審における予備的請求原因等

1  契約締結上の過失及び契約実行段階における過失

(一) 被控訴人の担当者であった佐々木及び高橋は、等価交換につき無知であったにもかかわらず、昭和六二年三月ころ、控訴人ら及び宏に対し、控訴人ら及び宏が本件一及び二の土地上にマンションを建設し、これをディベロッパーに譲渡した場合でも、租税特別措置法三七条の五第一項の適用があり、譲渡した土地の価格以上の資産を取得しない限り等価交換となるから課税はされない旨の誤った説明をし、その旨誤信した控訴人らに本件マンションの建設を決意させて、被控訴人との間に業務委託契約を締結させたものであり、被控訴人にはこの点において契約締結上の過失がある。

(二) 被控訴人は、ディベロッパーとして檜不動産が決定した際に、(1)檜不動産と被控訴人との本件マンションの建設工事請負契約、控訴人ら及び宏から檜不動産に対する本件一及び二の土地の売買契約、檜不動産から控訴人ら及び宏に対する本件マンションの区分所有建物(土地共有持分を含む。)の売買契約を締結するか、又は、(2)檜不動産と被控訴人との本件マンションの建設工事請負契約、檜不動産と控訴人ら及び宏との間の等価交換契約を締結すれば、控訴人ら及び宏に対する課税は全く生じなかったにもかかわらず、このような正しい等価交換の手法をとらなかった過失がある。

(三) また、被控訴人には、控訴人ら及び宏が等価交換による非課税の規定の適用を受けるためにはどのような登記をすべきかについて、正確な知識のもとに、檜不動産や辻本司法書士と打合せをし、誤った登記により、無用な課税が生じないように配慮すべき注意義務があるのに、これを怠り、漫然と檜不動産に任せきりにして放置した過失がある。

(四) 控訴人らは、被控訴人のこれらの過失により、本来負担する必要のなかった所得税及び地方税を納付せざるを得ず、各納税額相当の損害を被った。

(五) よって、被控訴人に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、控訴人伸二は、三〇四七万六二二〇円及びこれに対する納税日の後である平成三年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を、控訴人敏久は、四一九九万〇三四〇円及びこれに対する最終納税日である平成三年七月一日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  不当利得返還請求

(一) 控訴人ら及び宏は、昭和六二年三月ころ、被控訴人との間で、被控訴人のいう等価交換方式により、譲渡所得税その他課税のない形でのマンション建設をする旨の合意(業務委託契約)をし、被控訴人に対し、平成二年三月初めころ、この業務遂行に要する費用として、次の合計二二四一万〇四八〇円を支払った。

① 諸調査料 三五六万円

② 企画料 一〇〇〇万円

③ 一般管理費

八八五万〇四八〇円

以上合計 二二四一万〇四八〇円

(二) そこで、仮に控訴人ら及び宏と被控訴人との間に右業務委託契約の成立が認められないとすれば、被控訴人は控訴人ら及び宏から右金員の支払を受ける法律上の原因を欠くことになるから、不当利得として、これを控訴人ら及び宏に返還すべき義務がある。

(三) よって、控訴人らは、被控訴人に対し、それぞれ、右二二四一万〇四八〇円の三分の一に相当する七四七万〇一六〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

3  短期消滅時効の中断

控訴人らの主位的請求は、業務委託契約の不履行に基づく損害賠償請求であり、予備的請求の一つは、契約締結上の過失及び契約履行段階における過失による損害賠償請求であって、両請求は密接に関連しており、しかも、控訴人らは、被控訴人の過失内容を訴え提起の当初から主張している。

したがって、控訴人らの右主位的請求は、時効中断の関係においては、本件訴え提起の時点において、右予備的請求に係る裁判上の請求に準ずるものとして、右予備的請求についても時効中断の効力を有するものと解するのが相当である。

三  被控訴人の抗弁等

1  業務委託契約について

控訴人ら及び宏と被控訴人との間で、昭和六二年三月ころ、控訴人ら及び宏が本件マンションのディベロッパーに対し、本件一及び二の土地を提供し、ディベロッパーと控訴人らが被控訴人との間で本件マンションの建築工事請負契約を締結して、本件マンションを建築し、控訴人ら及び宏がディベロッパーから完成した本件マンションの区分所有建物をそれぞれの出資比率に従って配分を受ける旨の等価交換の話が持ち上がった。

しかし、右等価交換方式による共同事業に参加するディベロッパーがなかなか見つからなかったため、控訴人ら及び宏と被控訴人は、その後、右等価交換方式を断念し、控訴人ら及び宏が本件一及び二の土地上に本件マンションを建築し、被控訴人がその建築費用を立て替え、完成した本件マンションの区分所有建物の一部を第三者に分譲し、その売却代金をもって建築費用等に充当するという建築方法を採る旨の合意をしたものである。

2  控訴人らの損害について

租税特別措置法三七条の五の課税の特例は、譲渡所得に対する課税を将来に延期するという課税の繰り延べにすぎないから、控訴人らの負担した所得税及び地方税は、直ちに控訴人らの損害となるものではない。

仮に、控訴人らに損害が発生したとしても、その損害は、契約の締結を前提とする履行利益ではなく、精神的苦痛に対する慰謝料の範囲に限るべきである。

3  過失相殺

仮に、被控訴人に何らかの注意義務違反があったとしても、控訴人らは、昭和六二年三月に等価交換方式による提案がされてから、平成元年九月に檜不動産と土地付区分建物売買契約を締結するに至るまで、何ら具体的な提案をせず、積極的な対応をとらなかったのであるから、控訴人らにも信義則上要求される注意義務違反があるというべきであり、相当大幅な過失相殺がされるべきである。

4  短期消滅時効

控訴人らの被控訴人に対する不法行為(契約締結上の過失及び契約履行段階における過失)による損害賠償請求権は、控訴人らが各税金を納付した平成三年三月一五日から三年間の経過により、時効によって消滅したので、被控訴人は右消滅時効を援用する。

第三  当裁判所の判断

一  主位的請求について

控訴人らの主位的請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)に対する判断は、次のとおり加除訂正するほか、原判決事実及び理由の「第三 当裁判所の判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二三頁八行目の「一三」を「一八」と訂正し、同二四頁三行目の「居住して」の次に「株式会社文周堂を経営し、文房具及びOA機器等の販売をして」を、同二五頁二行目の「なった。」の次に「そして、それ以後、佐々木及び高橋と原告らとは、毎月約五、六回の頻度で、一回につき約三時間かけて種々の打合せを行っていった。」を、それぞれ加え、同四行目の「会わない」を「合わない」と訂正し、同六行目の「同年の一〇月か一一月ころ、」を削除し、同一〇行目の「その」の前に「原告らは、自己資金としてそれぞれ約一〇〇〇万円程度しか有しておらず、」を加え、同二六頁一行目の「昭和六二年初めころ、」を削除し、同三行目の「会わない」を「合わない」と訂正し、同五行目の「その後、」の次に「昭和六一年一一月ころ、」を、同行目の「交えて」の次に「、いわゆる等価交換方式により」を、それぞれ加え、同六行目の「もちあがり、同年」を「被告から持ち上がり、昭和六二年」と訂正する。

2  原判決二七頁三行目の「土地」の次に「上の建物」を、同二八頁六行目の「なかった。」の次に「また、本件マンションの建築工事請負代金も決まっておらず、被告から原告ら及び宏に対し、見積書の提出もされなかった。」を、それぞれ加え、同三〇頁八行目の「本件建物」を「本件マンション」と、同三一頁七、八行目の「原告ら及び宏が檜不動産から紹介された司法書士であり」を「檜不動産の担当者から、本件一及び二の土地並びに本件マンションの登記手続の依頼を受けるに際し、これは等価交換で、原告ら及び宏が本件マンションの区分所有権(敷地権付き)の何戸かを取得し、檜不動産がその余を取得する契約である旨の説明を受けたので」と訂正し、同三二頁五行目の「行った。」の次に「檜不動産及び辻本司法書士は、被告に対し、このように原告ら及び宏の兄弟間においても、本件一及び二の土地についての持分一部移転登記を行うことになったことを全く連絡しなかった。」を加える。

3  原判決三三頁八行目の「(一)(1)」の次に「(3)」を加え、同三四頁一一行目の「余地はなく、」を「適用の余地はなく、原告敏久の」と、同三六頁八行目の「七八八二円」を「七二八二円」と、同三七頁一行目の「四五五六万二〇〇〇円」を「四五三二万九二七三円」と、同三八頁七行目の「金額に超える」を「超える」と、それぞれ訂正し、同四〇頁九行目の「よれば、」の次に「原告らは、元々自己資金としてそれぞれ約一〇〇〇万円程度しか有しておらず、本件マンションの建設に伴いそれぞれ数千万円もの多額の課税がされることが判明していれば、本件マンションの建設に踏み切ることはなかったこと、高橋らの被告担当者も、原告らと打合せを重ねる中で、原告らの自己資金が少額であることは十分に知っていたこと、」を、同四一頁七行目の「そうすると、」の次に「高橋らの被告担当者が原告らの右資金事情を十分に知っていたこと、」を、それぞれ加える。

4  原判決四五頁九行目の「土地上に、」の次に「被告のいう」を加え、同五〇頁七行目から同五三頁三行目まで全部を削除し、同四行目の「全趣旨」の前に「(三) しかし、前記認定事実、証拠(甲二六の1、証人高橋、原告敏久本人)及び弁論の」を加え、同行目の「五」を削除し、同一〇行目の「が認められるのであって」を「、本件一及び二の土地上にいわゆる等価交換方式によりマンションを建設する話が持ち上がったのは、昭和六一年一一月ころであり、原告らと佐々木及び高橋とは、その後も時間をかけて頻繁に打合せを重ね、その中で佐々木及び高橋は、原告らに対し、(それが誤解であるにせよ、)原告らがディベロッパーに譲渡した土地の価格以上の資産を取得すれば、その差額に税金がかかる、あるいは、原告らが区分所有建物の一戸に代えて現金を取得すれば、その現金に税金がかかる旨の説明をし、原告らもそのように考えていたことが認められるのであって、これらの事実によれば、佐々木及び高橋が昭和六二年三月に原告らに対して等価交換の説明をした際に、原告らも、事に成り行き次第では、全く課税がされないというわけにはいかず、多少の課税はあるかもしれない旨の認識を持ったものと推認され」と、同五五頁一行目の「(三)」から同三行目の「できず」までを「(四) そうすると、結局、本件合意の成立を認めるに足りる証拠はないというべきであるから」と、それぞれ訂正する。

二  当審における予備的請求について

1  契約締結上の過失及び契約履行段階における過失について

(一)  前記一に認定説示したことろによれば、元々控訴人らにいわゆる等価交換方式によるマンション建設の話を持ちかけたのは被控訴人であり、被控訴人の営業担当者は、等価交換方式によれば、マンションの建設に伴う課税は全くされないか、又は、特段の用意が必要な多額の税負担が生じることはないと判断し、控訴人らに対してその旨説明していたのであるから、被控訴人の営業担当者は、マンション等の大手建設業者の従業員として、等価交換方式によるマンションの建設方法について正しい知識を持ち、十分な理解をした上、控訴人らに対し誤解を招くことがないよう正しく説明すべきであったことはもちろん、ディベロッパーが見つかった後も、控訴人らに多額の税負担が生じることのないように、控訴人ら及びディベロッパーとの間で、綿密な打合せ・調整を図り、工夫をするなどすべき注意義務があったものというべきである。

しかるに、被控訴人の担当者は、先に繰り返し判示したとおり、等価交換方式に関する租税特別措置法の規定を「土地等を譲渡した者が、譲渡した土地等の価格以下の資産を取得すれば税金はかからないが、それを超える資産を取得した場合には、その差額について税金がかかる。」と誤った理解をしていたのであり、その誤解を前提にした上、控訴人らに対しその旨誤った説明をして、控訴人らを注文者とし、被控訴人を請負人とする本件マンションの建設工事請負契約を締結し、さらに、ディベロッパーとして檜不動産が見つかった後は、檜不動産と何ら打合せ・調整を図ることをせず、本件マンションの区分所有建物一五戸を檜不動産に売却するよう交渉して売買契約を締結させ、それ以後の手続を檜不動産や司法書士等に任せきりにしていたのである。

そうであるとすれば、被控訴人の担当者には、等価交換方式について正しい知識を持ち十分な理解をした上、控訴人らに対し誤解を招くことがないよう正しく説明すべき義務、控訴人ら及びディベロッパーとの間で、控訴人らに多額の税負担が生じることのないように打合せ・調整を図り、工夫をするなどすべき義務の違反があったことは明らかであり、被控訴人には、この点において契約締結上の過失及び契約履行段階における過失があったものといわなければならない。

そして、控訴人らは、被控訴人の担当者の前記説明を信頼して被控訴人との間に本件マンションの建設工事請負契約を締結し、被控訴人は、本件マンションを建設した上、その区分所有建物一五戸を檜不動産に売却する交渉などしたのであるから、被控訴人は、控訴人らに対し、不法行為に基づき、これらの過失によって控訴人らに生じた損害を賠償すべき義務がある。

(二) ところで、被控訴人は、被控訴人の不法行為による損害賠償債務について三年間の短期消滅時効を主張するが、控訴人ら主張の契約締結上の過失及び契約履行段階における過失の具体的内容は、本件合意の不履行の帰責事由の具体的内容と重なり合うものであり、同じ事実関係を異なる法的観点から構成し直したものにすぎないから、控訴人らの被控訴人に対する本件合意の不履行に基づく損害賠償請求の訴えの提起(これが平成四年二月二五日にされたことは記録上明らかである。)は、時効中断の関係においては、契約締結上の過失等の不法行為による損害賠償債権自体に基づく裁判上の請求に準ずるものとして、時効中断の効力を有するものと解するのが相当である。

したがって、被控訴人の右主張は採用することができない。

(三) そこで、控訴人らに生じた損害について検討する。

以上認定説示したところによれば、本件マンションの建設のための買換えについては、適切な節税方法を工夫すれば、租税特別措置法三七条の五第一項の特例の適用が可能であり、控訴人ら及び宏のディベロッパーに対する本件一及び二の土地の各譲渡による収入金額が、ディベロッパーからの本件マンションの各区分所有建物の取得価額以下である場合には、この特例により、右各譲渡資産の譲渡がなかったものとされるところ、この譲渡所得の課税の特例は、譲渡の時点においては譲渡所得の課税はされないが、譲渡した土地の取得費が、買換え取得したマンションの取得価額に引き継がれ、そのマンションを将来譲渡するときは、その譲渡価額から控除できる取得費は、右土地の取得費を基礎として算定され、買換えの時に課税対象とされなかった譲渡益も含めて課税されうることになるし、また、買換え取得したマンションにつき不動産所得、事業所得等の金額の計算上、減価償却の計算の基礎となる取得価額は、右土地の取得価額とされているので(租税特別措置法三七条の五第三項、所得税法四九条一項)、その結果所得が多くなり、毎年の税額がそれだけ多くなるという仕組みを通じて、等価交換の時に課税されなかった税金を長期にわたって分割納付することになるものであるから、いわば課税の繰り延べがされるにすぎない制度である。

そうであってみれば、控訴人ら及び宏の本件一及び二の土地の譲渡及び本件マンションの区分所有建物の取得に関し、被控訴人において前記課税の特例が適用されるような措置をとったとしても、それによって、控訴人らに対する譲渡所得に係る所得税及び地方税の各課税の時点で、このような措置がとられない場合と比較して、現時点において、具体的に幾らの利益が生じるのかを算定することは困難であるといわざるを得ない。

すなわち、控訴人らが取得した本件マンションの各区分所有建物を将来譲渡することになるか、その譲渡の時期はいつか、その譲渡の対象はどれだけの部分か、控訴人ら取得の右区分所有建物のうち、控訴人らが賃貸している店舗及び居宅(原審における控訴人敏久本人)の賃料等の不動産所得が将来どのように変動するか、控訴人伸二が営業している店舗(同控訴人敏久本人)における事業所得が将来どのように推移するかなどが、証拠上全く確定し得ない。まして、本件の場合には、控訴人らに実際に課された各譲渡所得に係る所得税及び地方税について、一部は右課税の特例の適用を受けているのであるから、なおさらである。

そうすると、その反面として、本件においては、前記課税の特例が適用されるような措置がとられた場合と比較して、控訴人らに生じた損害を具体的に算定することは極めて困難であり、本件は、控訴人らに損害が生じたことは認められるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときに該当するものというべきであるから、当裁判所は、民事訴訟法二四八条に則り、以上認定説示の事情を総合考慮して(控訴人らの後記過失の点を除く。)、控訴人らが被った各損害の相当額を、控訴人らがそれぞれ納付した所得税及び地方税の約三分の一に当たる、控訴人伸二について一二六〇万円、控訴人敏久について一六四〇万円と認定する。

(四) ところで、証拠(甲二三の1)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人らは、昭和六二年ころから顧問税理士にその経営する会社等の決算書類及び税務申告書の作成等を依頼していたことが認められるから、その税理士に一言相談しさえすれば、本件一及び二の土地の譲渡及び本件のマンションの区分所有建物の取得、売却等に関し、前記課税の特例の適用を受けるについて適切な指導・助言が得られ、それに従った適切な節税方法を考案・工夫すれば、これほど多額の課税は発生しなかったと考えられるにもかかわらず、顧問税理士等の専門家に全く相談していないことは前記のとおりであるから、控訴人らにも前記各損害の発生につき過失があるものというべきであり、その過失割合は二割と認めるのが相当である。

してみると、被控訴人は、不法行為による損害賠償金として、控訴人伸二に対し一〇〇八万円、控訴人敏久に対し一三一二万円及びこれらに対する不法行為の日の後である平成三年七月一日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

2  不当利得返還請求について

以上認定説示のとおり、控訴人らと被控訴人との間には、本件合意の成立は認めるに足りないが、控訴人ら及び宏と被控訴人とは、昭和六三年三月に、請負代金額を七〇〇〇万円とする本件マンションの仮設事務所の建設工事等の請負契約を締結しているのであり、この契約は、仮設事務所の工事代金、被控訴人が立て替えた立退料、既存建物の解体工事費用等のほか、予備的請求原因2(一)①ないし③の諸調査料、企画料及び一般管理費の支払に充てるために締結されたものと認められ(原審証人高橋、弁論の全趣旨)、これを左右するに足りる証拠はないから、本件合意の成立が認められないからといって、控訴人らの被控訴人に対する右諸調査料、企画料及び一般管理費の支払(この支払の事実は当事者間に争いがない。)が法律上の原因なくしてされたものということはできない。

したがって、控訴人らの不当利得返還請求は、この点において失当である。

三  結論

以上の次第で、控訴人らの主位的請求はいずれも理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当であって本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴人らの当審における予備的請求のうち、不法行為に基づく損害賠償請求については、控訴人伸二につき一〇〇八万円、控訴人敏久につき一三一二万円及びこれらに対する平成三年七月一日から各支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却し、不当利得返還請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条二項、六四条、六五条を、仮執行の宣言につき同法二五九条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官塩崎勤 裁判官橋本和夫 裁判官川勝隆之)

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